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 2011 新春鼎談   
谷村:あけましておめでとうございます。去年もあっという間に1年が過ぎ、年が明けてしまいました。ことしもどうぞよろしくお願いいたします。
 
中白:あけましておめでとうございます。松嶌会長、英司先生には昨年もお世話になりありがとうございました。今年もどうぞよろしくお願いいたします。
 
松嶌:おめでとうございます。時間の流れが速かったのは、私の場合は大災害に圧倒されて茫然自失の状態で日々を送っていたからではないかと思います。カラダはこれまで以上に忙しくしていたはずだけど、主体的な動きではなく、あらがいようのない流れに乗りながら目の前のことに対応していた、そんな感じ。ひと言でいえば、余裕がありませんでしたね。
 
中白:本当に!震災の怖さを知りましたね。そして、今回は日本中が災害にあったように衝撃が大きかったと思います。さらに原発の問題もあり虚無感を感じました。でも被災された人、直接はしていない人に関わらず、何かしら気づき、考えさせられた年だったと思います。私は今回の問題で日本に原発が54基もあるんだと知りました。
 
松嶌:目の前にないこと、実際に痛みを感じないことには、私たちって実に不注意なものなんだって思い知らされましたね。
 
谷村:ホント去年は日本にとって大変な年でしたね。そしてあの大震災を機にこれまで見過ごしていた日本のウィークポイントがさまざまな方面であらわになってきたような気がします。そして私なんかあれも問題だ!これも問題だ!と問題を論じては早く解決しようと焦ってはいるんだけど事実は一向に進まない。それもそのはず、これらの問題はどれもそんなすぐに小手先で良くなるような問題ではないことに気づいていないんですね。
 
松嶌:年金問題、介護や医療のことなども、ずーっと騒いでいるだけで、大きな方向が見えないですものね。原子力事故は象徴的にまさに必然的に起こったといえるのでしょう。
 
中白:それを聞くとアレクサンダー・テクニークに取り組む態度を思い起こします。やり始めると自分自身の問題があれもこれもと気づき、焦るけれど一向に進まない自己改善に苛立ちます。それもそのはず、英司先生がおっしゃったように、小手先でわかるようなものではないということに気づくのにかなり時間がかかります。
 
谷村:言い方を変えると、これまでは小手先の修正で何とかやってこられた。だからそれと同じような態度で取り組んでしまったんでしょうね。でもそういった問題に対する態度が限界に来ていて取り組み方自体も考えなくてはならないような気がしました。
 
松嶌:まあそれは個人や日本一国だけじゃなくて、世界のあちこちが揺れていて、とにかくこれまでの常識や手法が役に立たなくなっているのは確かでしょう。で、社会と無関係ではいられない私たちはどうすればいいのか、ということですが。
 
谷村:そうですね。寄付をするとか現地に行ってボランティアをするといった直接的な活動も大切だと思うのですが、われわれ個々人が自分の生活の中でやっていることとそれらと内面においてどのように関連づいているのかを改めて考える必要があるような気がします。われわれでいえばヨガやアレクサンダー・テクニークというワークをすることと、どう関わってくるものなのか…。今年はこの話題で進めてゆきましょうか。
でもその前に、去年のヨガ協会としての、あるいはAT研究会としての出来事を思い返す必要があるような気がします。まずは松嶌会長からヨガ協会としてはどんなことを思い出されますか?
 
松嶌:やっぱり東北に意識が向きますが、そのつながりで数えてみれば3つの研修で皆さんの思いを強く感じられたことが大きいですね。大震災で吹き飛んだ3月のサットサンガが5月に延期されました。なにせあの状況、しかも連休中ですから少人数でもと思っていたら多くの指導者が集まって来られました。指導者の研修会もアサナ実践会もほぼ計画通りに実施されましたし、中止も考えた9月のインド研修団には、結果として山形の古澤師範を団長として東北・関東から多くの皆さんが参加されました。そして10月のフェスティバル。やはり例年と変わらないご参加で、盛岡でみんなで踊った姫神の曲に乗って、改めて東北の復興を自然への感謝を込めて祈りました。そしてどの研修も、いつもより引き締まった空気に包まれていたように感じました。
 
谷村:なるほど、私にはそういった現象は、この協会が成熟してきた証しのように思えます。というのも私にとって今回の大震災が教えてくれた教訓は、人生いくら注意していても何が起こるかわからない。その時にそのことに対する素早い対応は大切ですが、それと同時にそのことに右往左往されて混乱し意味不明の無駄な行動をしてしまい、本来の自分自身のやるべきことを見失ってしまわないことだと思いました。
 
松嶌:教室で向き合うのが体と、その体を通して現れる心、文字通り“自分自身”だからかもしれませんね。大災害に動揺するのはみんな同じでも、自分が動揺していることに早く気づくことができれば、早く鎮めることもできる。
 
谷村:その意味で協会の皆さんは本来の自分のやれること、あるいはやるべきことに素早く立ち戻られて、それを実際の行動に移されたということのように感じました。
 
松嶌:福島のいわき中央学園での勉強会にうかがう機会があったのですが、同じ会場で原発反対の集会が開かれていたのが印象的でした。同じ事態に際して、こっちはとにかく自分の意思でできる自分の健康を保つことをテーマにしている。複雑な社会問題を正しく理解して、さらに解決するのには時間がかかるから、まずは健康を自衛することから始めるのは現実的で正しい態度だと思います。
そういえば、さすがにいわき市の大谷先生が行けなかったものの、ほかの皆さんは8月、スイスでのアレクサンダー・テクニークの世界大会に粛々と参加された印象があります。
 
谷村:こんな時にコングレスなんて行っていいの?なんて言う人もいたみたいですが、私個人としては、こんな時だからこそ日本人の元気な姿を見せて、我々はATのワークに励むことを忘れていませんよ!って示したかったんです。
 
中白:私も震災にあってからコングレスに参加している場合じゃないじゃないの?と悶々と考えていました。でもコングレスが近づくにつれて、いつまでも悲しんで何もしないより、今現実に動ける人が行動するべきじゃないかと思い参加しました。現地ではリカさんのレッスンを毎日受けられるように計画してくださっていて、リカさんからは励ましと、震災に遭っていない貴方たちが頑張りなさいと言われているように思いました。
 
松嶌:地震の直後、すぐにリカさんをはじめ外国からのお見舞いのメールが届いて、こっちが驚いたほどでしたね。ほんとうに日本全体のことをご心配してくださっていました。
 
谷村:それで行ってみると世界中の先生方から温かい励ましの言葉をいただきました。私がそんな風に感じたというだけで何の確証はないのですが、言葉だけではなくてハンズオンのワークを通しても励まされたような気がしました。というのも、もしこれが反対の立場ならこの場面で私はどういう気持ちでワークするのだろうと考えたのです。そうするとやはりワークの相手が平安と安定感と元気を取り戻してもらえるように、今ここで一生懸命ワークをすることしかないという結論に達しました。そう思ったとたん、先生方も私と同じ気持ちで今ここで一生懸命ワークを私にしていてくれていることに気づいたんです。本当に感謝の気持ちでいっぱいになりました。そのおかげで世界の先生方との絆が深まったように感じました。
 
松嶌:いいお話ですね。それもワークのレベルの高さでもあったからこそ通じ合えたはずで、完全にATコミュニティの一員になられたのでしょう。
 
中白:私の意識の違いからか、今までコングレスに参加していた時とは違って先生方の考えや教え方を素直に受け入れることができ、アレクサンダー原理のヒントを頂けたように思います。
 
谷村:それからこれはコングレスではありませんが、われわれが加盟しているATIというアメリカの協会の集まりが10月にコロラドであって、その時にみんなで励ましの寄せ書きをしていただいたものが大谷さん個人宛に届いたとのことでした。
 

 

 
中白:そうだったんですか。知りませんでした。去年は沢山の国からボランティアで助けて頂いたり、義援金やメッセージなど、ただただ感謝の気持ちで一杯でしたね。日本人と同じようにショックや痛みを感じて、復興を願ってくださる気持ちが伝わってきたときは、人類は皆同じで繋がってるのかなぁと思いました。
 
松嶌:私たちが取り組んでいることって あくまで個々の体験なんだけれど、同時にそれは人類として共有している集合的な体験でもある、そんな大きなつながりを感じられるものを持っていることは、ほんとうに支えになりました。またその思いは、教室の生徒さんに伝えたい、伝えなくてはならない、という方向へも強くなったんじゃないでしょうか。
 
谷村:今、会長がおっしゃった個々人の体験が集合的な体験とつながってくるというところを我々はもっと理解すべきではないかと思うんです。個々人が健康になれば社会が健康になるということです。
 
松嶌:去年の暮れに国王来日で話題になったブータン
の“国民総幸福量”と似たような…。

中白:ブータンもいろいろな歴史があって今の国王のお父様が国民総幸福量という概念を提唱されたんですね。国民の一人一人の幸福感を感じている人たちが総人口に対してどれほどいるでしたね。

松嶌:そうですね。だからこのさらに根源的なところ、改めて幸せってなにかというところに視線を向けていきましょうか。

谷村:根源的なところとはどういうところなのか考えてみると、それはわれわれ一人一人の意識ということになりますね。それで思い出すのはお二人ともご存じの脳学者ジル・ボルト・テイラー博士のスピーチです。

松嶌:先日教えていただいて観たら、とっても興味深いお話でした。

中白:そのお話を聞いてから意識の方向性が少し確かになったかなぁと思います。

谷村:ちょっと長くなりますが、なるべく簡単に紹介してみたいと思います。彼女の話によると脳は右脳、左脳と完全に二つの半球に分かれていて全く違った働きをしているらしいのです。右脳にとっては“今”がすべてです “この場所 この瞬間”がすべてです。右脳は映像で考え、自分の体の内外の動きを流れとして音楽やダンスのように運動感覚で学びます。情報もエネルギーの形をとってすべて理解され、右脳の意識を通して見ると私という存在は、自分を取り巻くすべてのエネルギーとつながった存在なのです。右脳の意識を通して見た私たちという存在はひとつの家族として互いにつながっているエネルギー的存在です。今、この場所、この瞬間私たちはこの地球上で共に世界をより良くしようとしている兄弟姉妹で、この瞬間に私たちは完璧であり、完全であり、美しいのです。その一方、左脳はまったく異なった存在で直線的、系統的に考えます。左脳にとっては過去と未来がすべてです。左脳は現在の瞬間を表す右脳からの巨大なコラージュから詳細を拾い出し、その詳細の中からさらに詳細を拾い出すようにできています。そしてそれらを分類し、全ての情報を整理し、これまで覚えてきた過去の全てと結びつけて、未来の全ての可能性へと投影します。左脳は言語で考えます。継続的な脳の騒がしいおしゃべりが内面の世界と外の世界とをつないでいます。その小さな声が私に囁きます「帰る途中でバナナを買うのを忘れないで!明日の朝いるから」と。そして最も重要なのは、その小さな声が私に“私がある”と言うことです。

  松嶌:“I am(アイ・アム)”。自我の認識ですね。

谷村:そして左脳が“私がある”と言った途端、私は切り離されるのです。私は一人の確固たる個人となり、周りのエネルギーの流れから離れ、周りの人から分離されます。以上が彼女による右脳左脳の簡単な機能の説明です。
そしてある日、彼女はこれらのうちの左脳の部位が脳卒中によって失われたのでした。ということは左脳により抑圧されていた右脳の機能が解放されたわけです。その右脳優位の体験の話になります。
 
松嶌:「ワオ! だれかの脳を外から観察するんじゃなくて、自分で内側から脳を観察できる大脳学者なんて、なんてイケてるの!って思った」というところで講演会場は大爆笑。脳出血だとちゃんと診断して「救急車を呼ばなくちゃ」なんていう左脳の声もだんだん途切れて…。
 
谷村:彼女の左脳のおしゃべりが完全に途絶え、全くの静寂になりました。そして周囲の大きなエネルギーに魅了され、彼女は自分が大きく広がるように感じ、全てのエネルギーと一体となり素晴らしい体験をしたのでした。そこは素晴らしい所でした。外の世界と自分をつなぐ左脳のしゃべり声から完全に切り離され、この空間の中では仕事に関わるストレスが全て消えました。体が軽くなったのを感じ、外界全ての関係とそれにかかわるストレスの元がすべてなくなりました。平安で満ち足りた気分になりました。その世界では彼女は本当に幸福でした。
 
中白:テイラー博士の言葉がなくなって静寂感や幸福感を感じた経験は、私にも似たような経験があります。アレクサンダーのトレーニングコース前だったと思うのですが、教師にチェアワークをされている最中です。協調作用はもちろん感じましたが、体がいつもより柔らかくそして、溶けて私の体と教師そして、机や壁やそして、その当時苦手だった〇〇さんも部屋にいる皆さんも分けられないような…。無理矢理言葉にすると「みんな一緒」という不思議な感覚になったことを思い出します。ただただ“今ここ”にいて、良いとか悪いとかという判断はなく静寂で、人や物が分けられない感覚です。この感覚も私にとって右脳がいつもより働いていたのかなぁ。
 
谷村:なるほど、それはまさにそういうことだったかもしれませんね。私が言いたいのは、これはアレクサンダー・テクニークで体験する経験とリンクするのではないかと思ったことです。そしてこの経験を通してテイラー博士が言いたかったことは、生きながらにして私たちは“天国を見つけることができる”ということです。世界が美しく、平安で思いやりに満ちた、愛する人々で満たされ、みんないつでもこの場所に来られる。そのために意図して左脳から右脳へと歩み寄りさえすればこの平安を見出すことができるのだという気づき。この体験がどれほど大きな賜物となるか、生きている人たちにどれほど強い洞察を与え得るか、そのことに気付き、それが彼女の回復への力になりました。そして私たちがより多くの時間を右脳にある深い内的平安の回路で生きることを選択すれば、世界にはもっと平和が広がり、私たちの地球ももっと平和な場所になると信じるに至ったということです。以上が彼女のスピーチの主な内容です。ここで先ほどの話に戻って、根源的なところに視線を向けるというこの“根源的なところ”とはこの彼女の話にヒントがあるように思ったのです。
 
松嶌:個人として分析される対象としてのヒトじゃなくって、つながって全体となった存在の人間が生きている、そんな世界がどこかにあるわけではなくて、自分の脳の半分は実際にそんな風にしか現実を観ていないんだっていうのは驚きでした。もちろんイマジネーションが苦手な左脳には理解できないし、「それを“天国”という表現をしてもいいのか?」なんて客観的に分析を始めちゃうんだけど。他人と共感できる感性には個人差があるとは思っていましたけど、みんな脳の半分もが本来はそういう感覚のためにあるんだ、というのは、すごい発見ですね。個人差というのも左脳が右脳を押さえ込んでいる度合いによるわけだ。
 
中白:左脳人間とか右脳人間とか短絡的に分けてしまうことが流行っているようですが、脳の働きはそう単純なことではないと何かの本に書いてありました。
 
谷村:そうですね。左脳だけが働いている人間なんていないし、右脳だけ働いている人間もいないと思います。彼女のようにたまたま左脳に出血が起こった結果、右脳の働きが明瞭に実感を持って理解できたということですね。ここで思ったのは彼女もそうだったと思うのですが、一般的に左脳の働きはよく理解できるのですが、右脳の働きについてはよく理解されていないんじゃないかと思うのです。
 
松嶌:まあ天才芸術家や一流スポーツ選手に左利きが多いなっていうくらいのことですね。
 
谷村:その状況は、アレクサンダー・テクニークの理論はよく理解されても、実践についてはよくわからない人が多いという現象とも似通っていると思ったのです。なぜなら、どちらも“今ここ”の経験を通してしか理解できないものであるからだと思います。だからプライマリー・コントロールやダイレクションというものは右脳によって活性化された結果現れてくるものであって、左脳から起こってくるものではないということです。
 
中白:でも、アレクサンダー・テクニークでは“シンキング”(考える)ことを道具として使いますね。この“シンキング”は左脳の働きのように思うのですが…。
 
松嶌:その“道具”という位置づけがF.M.アレクサンダーが自分の発見を“テクニーク”と名付けた理由ではないでしょうか。
 
谷村:なるほどそう考えると“テクニーク”という言葉も受け入れやすいかもしれません。
 
松嶌:もともとからだを動かすのに、いちいち考えなくてはいけないようでは困るわけで、自動的、反射的に、古い脳が支配する領域。動物たちはそれで最高のパフォーマンスをしていて、なんの問題もない。ところが人間はからだの使い方が構造よりも目的を優先したものになって、自分のからだにいろいろトラブルを起こすようになってきた。
 
  中白:エンドゲイニング、目的至上の態度ですね。
 
  谷村:その道具が目的達成にのみ使われてしまった。
 
松嶌:その新しく発達した知能で“道具”を使うようになったヒトが抱えた問題を解きほぐす作業もまたテクニーク、つまり技術なんだということかもしれませんね。英司先生のお話をボディーワークでいえば、からだを本来の感覚にもとづいて動かすためには論理的な左脳が右脳をジャマをしている可能性がある、ということでしょう?
 
谷村:左脳は右脳を無視するようになる。そして知らず知らずのうちに左脳がすべての行動を支配しようとするようになる。
 
松嶌:美しくダンスをしていたムカデが意地悪なヒキガエルに「そんなにたくさんの脚をどの順番で動かしているの?」って尋ねられて、考え始めると脚がからまって動けなくなったっていう笑い話の通り。でも、やっぱり人にダンスを教えるためには道具としての言葉を使う。使うんだけど、言葉で伝わるものはダンスそのものではないっていうのが面白いところですね。
 
中白:ということは、左脳は知らず知らずにすべてを自分がコントロールできるかのような錯覚を起こし、右脳を抑圧するようになってしまったということですね。でもそれと同時に左脳は、意識を方向付けることで右脳を活性化させることもできるんですね。
 
谷村:そのとおりです。ですからアレクサンダー・テクニークにおいて、シンキングは右脳を蘇らせるための左脳の役目を果たすというわけです。それこそが左脳本来の役割だと言っていいのではないかと考えています。この考え方と一般的な考え方との違いはどこにあるのでしょう? 微妙ではあるけれど大きなが違いがあるように思うのです。ここが今回の話題である“根本的なところ”に視線を向けるというポイントだと思うのです。
 
松嶌:実際のワークで「前に~上に~、前に~上に~」ってぶつぶつ唱えますよね。あれは言葉ではあるんだけどむしろ左脳があっちこっちにさまよい出ないように鎮める、ヨガでいうマントラの役割をするのかな。自分のなかで起こっているさまざまなことを分析したがるのを止めて、“今ここ”で起こっていることを右脳が感じとって、まさに“根元的なところ”につながって蘇るのを邪魔しないように。
 
中白:なるほどマントラってそういう役割があったんですね。昔の人って左脳右脳の役割については知らなかったと思うのですが、経験でこうすればいいということを発見されていたんですね。すごい!
 
谷村:F.M.アレクサンダーだってそのことを知らなかったはず、でもそのことの重要性は感じていた。だから左脳の暴走を防ぐために左脳の全面ストップである“抑制”(インヒビジョン)という概念を考えたということだと思います。でも後世の我々にはこの抑制という考えがよくつかめない。
 
松嶌:そう。個人レッスン中に先生から「ストップ」って言われるたびに戸惑いましたけれど、自分の左脳が先を見越してフライングしていたんですね。
 
谷村:だからこの左脳・右脳の働きをよく理解すれば今の人たちにはF.M.の意図が理解しやすいのではないかと私は思っています。
 
松嶌:それは体験をすぐに言葉によって結論づけて評価しようとする左脳のクセを知っておくことでしょうね。左脳はあくまで右脳が楽しんでいる旅につきあいながら地図に印をつけておくくらいの役割に徹しなさいということか。“左脳カーナビ論”と、いま僕の左脳が右脳のイメージに名前を付けました(笑)。
 
谷村:左脳はそのように何かを命名するとか、地図に地名を付けるとか境界線を引くとかいう役目だということを知って活動している分には大いに役立つんですね。でも先ほどの博士が経験した静寂感、安心感、満ち足りた感じ、すべてのものとつながっている感覚からくるつながりと広がり、流れといった感覚、といったものは左脳にはないんです。そのことを我々は、あるいは我々の左脳はよく理解しなければならないと思うのです。
 
中白:なるほど。このことをよく理解していないと博士が体験した経験を再現するために左脳を一生懸命働かせてしまう。私も昔はATを理解しようとして一生懸命そのようにしていたような気がします。自分の努力がぜんぜん報われない。報われないどころかますます事態が悪化してゆく…。その理由が左脳と右脳の役目をよく理解していなかったからだということがよくわかります。
 
谷村:それは順子さんだけではなくてほとんどの人がそういう態度で努力しているのではないでしょうか? 今の世の中、そのことに明確に気づいている人がどれほどいるでしょう。ですからボチボチそこに目を向ける、つまり先ほど会長がおっしゃった“根本的なところに視線を向ける時期がやってきたということではないでしょうか。何度も言いますが、博士が体験した幸福感や平和感は左脳には理解できない。左脳にできるのは未来への予測や心配、不安、過去のデータからくる際限のないおしゃべり、そして物事を分析し、分断し、自分を孤立させることです。それにもかかわらず我々は幸福になるために、平和になるために左脳をフル稼働させているのです。
 
中白:確かF.M.は我々はなにか“間違った方向の努力”をしていると言っていましたね。
 
谷村:そしてその結果はどうか?を一度立ち止まって自分自身を、自分の周りをよく見てみる必要があるのではないでしょうか。我々はこの矛盾した反応、あるいは行動を本当に理解しているのか…。
 
松嶌:じつに人類史の総括になりましたね。まさに発展を続けてきた近代文明が壁にぶつかっている今が誰にとってもチャンスのはず。まあ悲観というのも左脳のしわざでしょうから、とにかく自分がまっ先に“根本的なところ”につながって、博士やアレクサンダーや、きっと人類史上には無数にいたはずの“幸福感”に満たされた人々の一人になることを注意深く、でも楽しみに待てばいいのではないでしょうか。そのように“在る”だけで、周りの人に方向性が感染していくはずだし。今はいっぱい反省するチャンスの時代だから感染力はぐっと強くなっているんじゃないでしょうか。
 
中白:でも、我々は感染するのを待っているだけでいいのでしょうか?
 
谷村:ダメでしょうね。以前は私もそう考えていたのですが、リカさんから学ぶようになって待つだけではだめではないかと感じるようになりました。ここにもう一つの左脳の落とし穴があることに気づきました。左脳はダメなんだから使わないようにしようというわけです。そうすると左脳は怠け始めるのです。
 
中白:リカさんに我々は「Don’t be lazy!(怠けないで)」なんて時々叱られますね。(笑い)
 
松嶌:怠けちゃいけませんね。いつも自分の変化には気付いていないと。積極的に待つ、という態度。
 
谷村:そうです。だから左脳はいっときも怠けてはいけないのです。というよりも怠けてなんていられないわけです。より俊敏に、軽やかに、生き生きと働くようにならなくてはなりません。
 
松嶌:ヨガの伝統では人間は5層の鞘に納まっていると見て、そのいちばん深いところを「歓喜鞘」、アーナンダ・コーシャっていうんです。このネーミングは右脳の実感、根本的なところのありようを表してますよね。だから自分のなかに喜びがない、安らぎがない、寂しい、騒がしいなんて感じたら、左脳の暴走か怠慢を疑うべし。
 
谷村:左脳が怠けていないか、あるいは暴走していないかいつも注意深く疑うことが左脳の役目のような気がします。左脳は右脳を疑うべきではなく、左脳自身をいつも疑うべきでしょう。
 
松嶌:右脳はいつだってありのまま天真爛漫なんだから。
 
谷村:そして左脳の方向付けが正しければ必ず右脳が答えてくれるはずです。
 
松嶌:答えは“喜び”であり“安らぎ”、そしてつながっている“幸福感”…。
 
谷村:右脳が答えてくれなければ、その方向付けを疑って見直してみる必要がある。こういう作業がテーラー博士がおっしゃった“左脳が右脳に歩み寄る”という作業のような気がしました。
 
松嶌:日常生活での常識や前例、習慣というパターンをすぐにリセットできる謙虚さ、柔軟さがもてるかどうかですね。左脳は我こそ自分なんだって思っているわけだから、簡単には譲らないこともあるでしょうけれど。ヨガ教室でも「○○のポーズは××のため」という決めつけには注意しないといけません。自分はこう習った、本にそう書いてあるということは一旦置いて、同じポーズをしても毎日の変化や生徒個々の異なる反応を感じとれてこそファッションじゃない療法としてのヨガが指導できるんですから。
 
中白:ですからこの話がただ抽象的、論理的なものとして終わってしまうのではなく、もっと具体的なものにならなくては意味がないように思います。そしてアレクサンダー・テクニークのワークがその役割を果たせる気がします。
 
谷村:そうですね。トレーングコースにチャレンジした皆さんは、会長がおっしゃった左脳の傲慢さや頑固さを実感し、いかに謙虚さや柔軟性が大切かを身に染みて理解されたと思います。
 
中白:私がトレーニングコースを受けていた時、左脳と右脳の働きを理解していたら、もう少しスムーズに学べたんじゃないかと思います。なぜかと言うと教師に「あなたは順子アイランドを作っていて、そこから出ようとしない」と言われました。その当時は左脳が作った島にいて中白順子のルールがあり、それに当てはまらない人たちは駄目だと判断して認めない。今はそのことが良く理解できますが、その当時は何を言われてるのか理解できませんでした。
 
松嶌:その理解を今年も分科会や各地の研究会を通じてヨガの指導者や生徒に伝えてください。2011年のたいへんな体験で日本人みんなが強く感じた「絆」、このせっかくの体験を失わないためには欠かせない、経験豊富な人ほど失いやすい根源的な態度ですから。トレーニングコースと言えば、今年はAT研究会のトレーニングコース第2期が修了される予定ですね。おめでとうございます。
 
谷村:ありがとうございます。ここにいる中白順子さんや太田さとさんの協力で何とか無事終了することができました。
 
中白:こういう機会を与えてくださって感謝しています。おかげさまで私も多くを学ぶことができました。5月にはリカさんも会長も一緒に2期生の卒業を祝ってくださるんですよね。
 
松嶌:はい。みんな先頭を走ってくれている仲間ですから。リカ先生からは早くも飛行機のチケットも取って、すごく楽しみにされているってメールが届いています。
 
谷村:それと同時に第3期トレーニングコースが始まります。福岡は現時点では希望者が定員に満たないので休止ですが、月に1度の研究会は継続の予定です。東京の参加者は現時点で5名で、さらに8月にはもう1名が加わって計6名になります。東京はこれでもう満員御礼です。奈良は今のところ3人で少しゆとりがあります。そんなわけで合計9名での第3期トレーニングコースが2月からスタートします。
 
松嶌:毎週のようにご出張が続きますね。もちろん健康第一で、よろしくお願いします。
 
谷村:心を新たにもうひと頑張りしたいと思います。順子さんもまた、よろしくお願いします。
 
中白:こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします。
 
 
テイラー博士の講演:
TED talks テイラー”で検索ください。日本語訳が表示されます。

 

 松嶌徹

国際ヨガ協会 会長

 

谷村英司

日本アレクサンダーテクニーク研究会

代表

中白順子

ATI所属教師

 

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